杉ブログ

主にスギ花粉症について勉強したことを書いていきます。

スギ花粉症有病率は48.8% (東京都・2017)

2017年の東京都知事選挙で, 小池都知事は公約として「12のゼロ」を掲げて当選し話題を呼びました. この12のゼロとは, 原発ゼロ, 隠蔽ゼロ, 企業団体献金ゼロ…と続き, 10番目になんと「花粉症ゼロ」が挙げられています. 2017年10月7日の東スポwebに記事がありましたので, 引用します.

小池氏は「とても身近な課題。社会的なロスを考えると、林や森の問題から、医療・医薬品の開発まで含めて取り組んでいく」とヤル気満々。都政担当記者は「全国でスギやヒノキを伐採するんですかね。何期務めるつもりなのか」と皮肉交じり。また「小池知事が花粉症に悩まされているという話も聞かない」というからナゾは深まるばかり。

この公約, 「実現性ゼロ」と揶揄されていますが, 花粉症が社会的な損失であるという認識については慧眼だと思います. また, 花粉症問題は医療・環境・産業を横断する課題であり, 強いリーダーが課題に取り組むことは重要だと思います. 東京都というひとつの自治体の力で解決できるかどうかは, わかりませんが...

さて小池都政とは無関係に, 東京都ではほぼ10年毎に福祉保健局が都内のスギ花粉有病率についての調査をしています. そして昨年は第4回の調査が実施され, 都民の実に48.8%がスギ花粉症を患っているという報告がなされました. その2017年の調査報告書を読んでみましたので, 都民にとって花粉症がどのくらいヤバいのかを見ていきたいと思います. ソースはここです:

調査の方法

都民3600人を対象にしたアンケート調査; 2-4月にくしゃみ, 鼻水などの症状の有無, 医療機関の受診の有無等を調査しています. さらに, 回答者を対象に花粉症検診を行い(3月), スギ花粉症の有無を診断しています. スギ花粉症の有病判定は

(4)スギ花粉症の有病判定
  花粉症検診受診者のスギ花粉症の有病判定を下記のとおり行った。
  スギ抗体検査結果が陽性(クラス2以上)であって、検診当日に花粉症症状・所見を呈していた者又は花粉症症状を抑える医薬品を使用していた者を、スギ花粉症「有病」 と判定した。

とのことで, 血液検査で診断していて, かなり本格的な調査です.

ちなみにアンケートの回答率は3割前後, 性比はほぼ半々でした. 興味深いのが回答者の年齢で, 最大値が101歳, 最小値が0歳となっています. 回答者の平均年齢は45.94歳でした. 花粉症は年齢が上がっても治癒しないため, 回答者の年齢が上がるほど有病率が上昇すると考えられますので, 偏りがないことが重要です. 東京都の平均年齢が44.63歳*1ですから, 母集団としては都民の実像を反映していると考えられます.

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結果

まずはアンケートの回答で, 花粉症シーズンの症状を見てみます.

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くしゃみ・鼻水・鼻づまり (鼻炎症状) と目のかゆみは代表的な花粉症の症状ですが, 都民の半数はこうした症状に苦しんでいます. さらに,鼻炎症状の重症度を見てみます.

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このグラフと, 設問[(症状が)あり」と回答した症状は, 日常生活にどれぐらい影響していますか]の回答を比べると,

No. カテゴリー名 n %
1 何も対策をしなくても日常生活に支障はない 381 26.9
2 セルフケア(市販薬の服用、マスクの着用等)をすれば日常生活に支障はない。 497 35.1
3 医療機関にかかれば日常生活に支障はない。(自分でできる対策だけでは日常生活に支障がある。) 387 27.4
4 医療機関にかかっても日常生活に支障がある。 110 7.8
  無回答 39 2.8
  回答者数 1414 100.0

ざっくり[最重症]または[重症]の人は, [医療機関にかかれば日常生活に支障はない]または「医療機関にかかっても日常生活に支障がある」と感じているようです. したがって, 東京都には花粉症のために医療機関にかかる必要のある人は約22%(300万人)いることになります. この数字, わりと肌感覚に近いと思うんですが, どうですか?

また, 薬の使用についてのデータでは, 花粉症の症状を訴えた人の約64%が市販薬または処方薬を服用していることがわかります.

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こうした薬剤には医療保険が適用され, 少なくない金額が花粉症に費やされていると考えられます.

次に, 本調査での花粉症の原因となる植物種のデータを見てみます.

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結果はもちろんスギが第1位なんですが, その割合は約8割と非常に大きいです. スギを優先的に対策する必要がありそうですが, ヒノキも結構無視できないと思いました. 血液検査ではスギ花粉症有病者の約半数がヒノキ花粉症も陽性というデータもあります.

年齢別のスギ花粉症の有病率の推移を見てみます. 調査はほぼ10年毎に行われています.

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グラフを見れば, 有病率が増加の一途を辿っていることは明らかです. この傾向が今後も続くとすれば, スギ花粉症有病者は今後さらに増加するということになります. また, 年齢による有病率の差は大きくないようです. 東京都の人口の流入・流出を無視すれば, 第1回調査で0-14歳だった層は今回の調査で30-44歳になっていますが, 有病率は増加する一方であることから, スギ花粉症が治癒する人はほとんどいないと推察されます. ただし, 「各回の調査では有病判定の基準や推計方法に一部変更点があるため, 推定有病率の変化を単純に比較することはできない」と断ってありました. これらをまとめ, 冒頭にも紹介した都民のスギ花粉症の有病率48.8%という数字が算定されました.

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今回はあきる野市, 調布市および大田区の3箇所で調査が行われていますが, 地域差がないということもわかりました. 川島ら(2002)のシミュレーションでは東京東部で花粉量が特に多いと予想されている*2ことから, 花粉の曝露量と発症には明確な因果関係がないのかもしれません. 報告書では, 他にも住民の入れ替わりによって地域差が低減しているか, アスファルト舗装された地面から舞い上がった花粉による二次曝露の効果によるものではないかと考察しています.

以上のデータを見ると, 東京都では48.8% (約669万人) という非常に多くの人がスギ花粉症に苦しめられているということがわかりました. さすがに「国民病」と呼ばれるだけはあって, 凄まじい数です.

最後に, アンケートの設問[東京都の花粉症対策に希望することは何ですか]に対し, 最も多かった回答が「花粉症の根本的な治療方法の研究を推進する(43.3%)」次いで「スギ林等の伐採や枝打ちで飛散する花粉を減らす(37.6%)」でした. これらの希望はもっともですが, スギ林は近隣の県にも多くあるわけですし, 一自治体が取り組むには難しい課題だと思います. 明らかに国が主導して取り組むべき課題です.

なお, 東京都医学総合研究所では花粉症治療の研究が進められているようです*3. 研究者の皆様, よろしくお願いいたします.