杉ブログ

主にスギ花粉症について勉強したことを書いていきます。

「精英樹」について

現在植林されているスギは, 精英樹 elite treeというモノらしいです. 精英樹について調べていたら, 林野庁等の資料がありまして, これが非常に面白いので丸パクリですが紹介します. この記事の情報源はここです:

精英樹とは

「林木育種事業の実施について(31林野第11236号)」等に基づき、用材生産を目的として成長の早いこと、単位面積あたりの収穫量が多いこと、幹がま っすぐであること、病気や虫の害がないこと等を目標とし、「精英樹」(第1世代精英樹)として約9,100本を選抜。

 

我が国の育種事業は50年前に「精英樹」を選抜することから始まりました。林で一番成長が良く,幹も通 直で枝も細い等の目立って優れた木,いわゆる「やまい」を全国津々浦々のスギ,ヒノキ,マツ,カラマ ツ林等から精英樹として選抜したのです。これは,国,都道府県及び民間が一体となって進めた一大国家事業であり,林木育種場と当時呼ばれていた林木育種センターの企画・指導のもとに全国で9,000本に及ぶ精英樹を選び,クローンを養成しました。

だそうです. つまり野生スギから, 有用形質をもとに優秀な株を選抜したのですね. 1954年 (64年前) から大規模な選抜事業を始めたのだそうです. こんなことやってたとは...! 「津々浦々」とありますが, 実際にサンプリングした地点は

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この赤点の位置だそうです. マジで津々浦々!これ, 森林を歩いて1本1本歩いて取りに行ったわけですから, 相当な大事業です.

そしてこのエリートがどのくらい卓越しているかというと…

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これヤバくないですか !? ImageJで周りの樹と比べると, すぐ手前の株の実に149%の高さがあります. しかもシュッとしてるし.

そしてこちら選抜の結果

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(統計学のお手本みたいなヒストグラムです) 選抜後 (精英樹) の胸高直径の最頻値が1.25倍になっています. 胸高直径は地上120cm位置の幹の太さです. これ背の高さは多分もっと差があるんでしょうね. しっかしここまで差があるとPも要らないのか??

この後には, 特に優れた精英樹同士をかけ合わせた, 第二世代精英樹を選抜しています…と書いてあるのですが, ちょっと, えって思いますよね. 雑種第ニ代(F2), 三代(F3)と重ねるのか… 気が遠くなるような事業です. しかもこれ, 成熟すればいいってものでもなくて, 世代重ねるまでに充分成長させて表現型を評価しなくちゃならないので, F2を50年とか育てなきゃならんのか… するとF3の芽が出るのは2060年くらいですよね.

これ, 一般のスギと第一世代精英樹のゲノム比較して, GWASで 成長性と相関の強い多型を決定して, F2のうち優れたゲノムを持ってる株を育てる作戦にした方がいいんじゃなかろうか. 全然今からでも間に合うし.

それから, スギって花をつけるまでに20年くらいかかるらしいんですが, 短縮する技術を開発した方がいいですよね. カルスから直接花芽に分化させたり, 減数分裂を誘導したりって, できないんですかね? こんど調べてみます.
実生苗にジベレリン処理をすることで花芽形成を誘導できるようです*1.

今回は精英樹について調べてみましたが, すごいです. 先人たちの努力が生み出した, 紛うことなき日本の財産であると思います. しかしながら, このエリートたちが成長性のみならず, 花粉の飛散量までもがエリートだったということは, 現在の花粉症地獄を鑑みれば皮肉としか言いようがありません. また, なんとかこの精英樹, さらに次世代精英樹の成長性をそのままに, 花粉を減らした株を作りたいという事情もなんとなくわかりました(?)

*1:Hashizume, H. The effect of gibberellin upon flower formation in Cryptomeria japonica. J. Japanese For. Soc. 41, 375–381 (1959).